子守り屋 第三話

子守り屋 <第三話>
        
酒屋の丁稚奉公、平八郎、気になることがございます。
 
ガラマサ兄弟のことが、一件落着したのは良かったのだが
ガラマサのお父で、髪結いの亭主、牛五郎さんが
おさびさんとの間に出来た子供は、確か四つ子と言っていた。
 
ってぇこたぁ、あれだよなぁー。
ガラマサの兄弟が、他に、もうふたり居るってことだよなぁー。
どうにもこうにも気になって、仕事に身が入らねぇ平八郎。
余計な、お節介とは、わかっちゃいるが・・・。
配達の合間に、おさびさんの店へ立ち寄ることにした。
 
河川敷の桜の名所に近い、表通りの小粋な場所に
おさびさんのお店はあった。
 
そこら一帯は、おしゃれな上方の江戸っ子御用達の町屋。
庶民な平八郎は少し緊張していた。
場違いな小僧だなと思われないか、オドオドしていたので
周りから見たら、相当キョドっていた。
 
覚悟を決めて、えいやっ!! と、店の引き戸を開けた。
 
いらっしゃい〜。
 
気怠そうな声で振り向いた、おさびさんはとても美しかった。
平八郎の緊張はMax。変な汗をかいて、真っ赤になりながら
しどろもどろで説明をした。
 
ああ、話は聞いてるよ。
家の子らが、世話になったんだってねぇ。
お兄さん、ありがとうよ。おおきに。
 
いえいえ、とんでもねぇですよ、姉さん。
おいらは、当たり前ぇのことをしただけでさぁ。
そ、それより、牛五郎さんが、あの子ら四つ子だって
言ってやしてね。他の兄弟はどうしたのかなぁーとね。
思っちゃったり、しちゃったり、したもんで、そのぉ。
 
すると、おさびさんの顔色が急に変わった。
 
なんのことだぇ。
そんなこたぁ、お前さんには
関わりのないことですろ。
さぁさぁ、商売の邪魔すんなら
とっとと、けえっとくれっ!!
 
そう言って、平八郎を追い出すと塩を撒いて、
物凄い勢いで、ピシャリと戸を閉ざしてしまった。
 
平八郎は、尻餅をついたまま、
しばらく、あっけにとられていた。
 
しょんぼりしながら、夕暮れの河川敷を、
ひとりトボトボ歩いておりますると、
夕げの支度前の奥さん達が集まって立ち話をしていた。
 
ねぇねぇ、奥さん、お聞きになりましたぁ。
最近、この河川敷で、神隠しがあったんですってよぉ。
しかも、子供ばかり狙ってるそうなのよ。
あら、やだ、怖いわねー売られちまうのかねぇ。
家の子にも気を付ける様に言っとかなきゃだわ。
 
神隠し? 世の中、物騒になったもんだなぁー。
平八郎は、ため息をつきながら、家路を急いだ。
 
そんなことがあって、しばらく経ったある日のこと。
例の町屋の近くに、配達の用事を任された平八郎は
たまたま、おさびさんの店の前を通り過ぎた。

あの時のことを、思い出し、何の気なしに振り返ると
おさびさんが、まだ昼前だってのに、看板を下して
そそくさと出掛けてゆくのが見えた。
手には、小さな包みを、袖で隠す様に持っている。

平八郎、気になって、見つからないように後をつけた。
 
裏通りの路地を何度も曲がり、人目の付かない納屋に
おさびさんは入っていった。隙間から覗いてみると
そこには、ガラマサと同じ年頃の三毛と黒の幼子がふたり。
おさびさんの持ってきた、おかか結びを夢中で頬張っていた。
 
でも、なんだって、こんな所に隠れているんだろう?
平八郎は、不思議でしかたなかった。
 

その帰り道に、考えながら、橋の上を歩いておりますと
すれ違いざまに、肩がぶつかり転びそうになった。
 
おおっと、あっぶねぇなー。
ちゃんと前見て歩きやがれっ!!
出前の寿司が、台無しじゃねぇかぁー。
 
寺小屋で、同期だった洋平だった。
洋平は、三兄弟の真ん中で、陽気で元気な黒白猫で、寿司屋で修行中だ。
長男の恭平は、キジトラ。その容姿を見初められ、呉服問屋の若旦那に。
末っ子の心平は、キジ白。物静かで手先が器用なので、かんざし職人に。
 
進む道は、それぞれに違っても、幼い頃を共に寺子屋で過ごし
生まれ月も近い、同い年だったので、四匹は仲が良かった。
なので、今でも、時々、集まって、夜が更けるまで語り合ったりしていた。
 
なんでい、誰かと思ったら、平公じゃあねぇか。
どうした、神妙な顔しちゃって、またフラれたんか?
そっか、そっか、気にしなさんなー。
今夜、久々に皆で、パァーっと飲もうぜぃ!!
 
まったくぅ、昔っから、洋ちゃんは、人の話を聞かないんだからぁ。

その日の夜、仕事が終わってから、いつもの居酒屋に集まり
平八郎は、今までのいきさつを、みんなに話した。
 
おさびさんなら、知ってるよ。お得意さんだもの。
かんざし職人の心平が、珍しく、いの一番に話し出した。
 
身重になってから、しばらく仕事を休んでたから
今年の春に、お祝いを持ってけって
師匠に使いを頼まれたんだ。
確か、茶トラ二匹と三毛と黒の赤子だったよ。
 
ビンゴだ。平八郎は確信した。
 
ああ、あの髪結いの旦那なら、知ってらー。
今度は、寿司屋の洋平が喋りだした。
 
うだつの上がらねぇ牛五郎っていやあ有名だよ。
家の店でも、飲んだくれて、つけが溜まっちまって
とうとう、親父さんの堪忍袋の緒が切れて
出入り禁止になったばかりなんだぜー。
 
やっぱり。平八郎は思った。
 
そういえば、神隠しって噂、知ってる?
呉服問屋の若旦那、恭平も口を挟んだ。
 
あれって、子供をさらって、小姓として売ってるらしいんだ。
家の商売柄、色々と裏社会の話も耳に入るんだけどね。
借金の肩代わりにする奴もいるんだって。
 
借金の肩代わりか・・・。平八郎は、ハッとした!
 
その時だった。
店の外で、誰か助けてーと悲痛な叫び声と共に
荒くれ者たちの怒鳴り声が聞こえてきた。
平八郎たちが、慌てて、表に出てみると
絡まれているのは、なんと、おさびさんだった。

子供が、私の子供たちがー連れて行かないでぇー。
おさびさんは泣きながら、懇願した。
 
恨むなら、てめぇの甲斐性なしの旦那を恨むんだな。
博打で負けこんだ分の銭を返さねぇのが悪りぃんだよ。
代わりに、ガキ共を担保にするって、あいつが言ったんだから。

平八郎、頭に血が上って体がブルブルと震えました。
気が付くと、荒くれ者のひとりに殴りかかっておりました。

そして、三平達も、助っ人するぜっ!! とばかりに、
ひらりひらりと身をかわし、バッタバッタと曲者退治ー。
 
の予定でしたが、誰かが通報したらしく
途中で岡っ引きが、御用だ御用だーと現れ、曲者ごと退散。
 
おさびさん、大丈夫かい?
あんたこそ、怪我ぁしてるじゃないか。
 
おさびさんは、平八郎に先だっての非礼を詫び
一度、子供たちが、さらわれそうになったので
口を閉ざし、隠していた事情を話してくれた。
 
なんて、ひでぇことしやがる。
そうだ、これからは、おさびさんが仕事で
忙しい時には、おいらたちが順番で、あの子らの
面倒を見ていてやるよ。だったら安心だろう。
 
こうして、三毛のみそちゃんと、黒ののりくんの
子守り役を請け負った四平達は、代わる代わる、ふたりを可愛がった。
 
今日は、誰が、みそ当番だっけ。
のりは、男のくせに、いつまでたってもヘタレだなぁ。
だって、あんな怖い思いをしたんだから仕方ないよ。

てな具合いに、お兄さん風をビュービュー吹かせながら
毛繕いやら何やらと世話を焼き、お蔭で、ふたりの髭は
舐められ過ぎて、いつも短いのです。
 
向こう三軒両隣り。
こうして、みんなの支えや見守りのお蔭で
今日も、町は、平和を保っているのでした。

めてたし、めでたし。だよね。
 
           【第三話・完】


≪ あとがき ≫ 
 
その後、平八郎は、酒屋を手伝いながら
副業で、子守り屋という商いを始めた。
これが、口コミで評判となり、お江戸の
ワーキングマザーに重宝されたとな。

いわゆる、これが、ベビーシッターの走り
元祖と言われています。 
 
まぁ、嘘ですけどね。
 
読んでいただき、有り難うございやした。
シーズン2、これにて終了です。

一部のマニアックな皆様に、楽しんで
いただけたら幸いです。
 
また、くだらない妄想を思いつきましたら
続きをかこうかな〜なんて思うとりますので
よろしくお願いします。
 
のらみい拝

子守り屋 第二話

子守り屋 <第二話>
 
酒屋の丁稚奉公、平八郎、今日は久々のお休みです。
特にすることもないので、河川敷をフラフラと
気の向くままに、お散歩しておりました。
 
春まだ浅く、少し肌寒い季節だったが、陽当りの良い
藤棚のある東屋は、かっこうの憩いの場所になっていた。
今日も近所のご隠居さん達が、のんびり囲碁なんぞ指している。
お馴染みの茶白爺さん達の中に、若い黒白猫が混ざっていた。

おやっ? 髪結いの牛五郎さんじゃないか。
見ると傍らには、まだ幼い茶トラの坊主共が、じゃれ合うていた。
 
こんちわー、牛五郎さん。
珍しいね、どうしたんだい昼間っから。
この子達は、何処の子だい?
 
おぅ、平の字じゃねえか。
今日は、休みかい?
ああ、こいつらは俺の息子たちだよ。
こないだ、四つ子で産まれてなぁー。
俺に似て、中々めんこいだろうぉー。
 
いやいや、そういうことではなくて、仕事は?
何で、こんな所で油売ってんだよって話。
と、心の中で、平八郎は呟いた。
 
しかも、赤ら顔で、そこはかとなく酒臭い・・・。
 
牛五郎の女房は、とても働き者で、町でも腕が良いと
評判の髪結い職人だ。名を、おさびさんと言った。
小柄で可愛らしい外見だが、しっかり者で気が強い。
それに引き換え、この牛五郎って奴は、怠け者で
酒癖も女癖も悪いときたもんだ。

酒代のつけも、おさびさんの稼ぎで
払っているのを、平八郎は知っていた。
髪結いの亭主、つまり、ひもだよなぁ。

おにぃちゃーん、遊んでくれよぅー。
着ぐるみのゆるキャラ系、平八郎に子供達は親しみを
覚えたのか、しきりに絡んできた。
 
し、仕方ねぇなぁーじゃあ、ちょっとだけだぞ。
そう言いつつも、まんざらではない顔をして
碁に夢中になっている牛五郎を、よそに相手をしてやった。
 
それ以来、この2匹にすっかり気に入られてしまった平八郎。
何かにつけては、牛五郎に押し付けられて、面倒を見る羽目に。
俺ってば、専業主夫だからぁーなんて言って
相変わらず、のらりくらりと遊び呆ける牛五郎。
 
それでも、平八郎は、文句のひとつも言わずに
忙しい仕事の合間を縫っては、せっせと
このチビ達の世話を健気にこなした。
 
それには、深い深い訳がございました。

平八郎も、また、幼少期につれぇ想いをしたんです。
 
平八郎の両親は、若くして駆け落ちし、
この町に流れてきた夫婦だった。
一時しのぎに、町の古長屋に、名を偽って身を隠し
貧乏ながらも、つつましく幸せに暮らしておりました。
 
ところが、ある日、大工の見習いをしていた旦那が
仕事中に足場から落ちて、あの世へ行っちまったのです。
その後、残された若妻は身籠っていることがわかった。
生活は苦しかったが、あの人の忘れ形見だからと、独りで出産。
なんと、五つ子ちゃんが産まれたりー。
 
さすがに、独りで子供5匹を育てるのは至難の業だった。
長屋の仲間も色々と手伝ってはくれたが、仕事をいくつも
掛け持ちしながらの子育てで、疲労困憊し、うっかり
お乳を飲ませるのを忘れて、うたた寝しちまうことも
しばしばあった。
 
見かねた周囲の説得で、兄妹の内の2匹の娘を、
泣く泣く養子に出したが、心労のあまり、
残りの3匹の育児を放棄してしまったのだ。
 

その当時、駆け込み寺としても有名だった
あの和尚の寺子屋に、栄養失調だった
残りの三兄弟は預けられた。

残念ながら、兄弟の一匹は、手遅れで幼い命を落とした。
何も知らない兄弟ふたりは、和尚の下で健やかに
素直にスクスク育っていった。
 
そんな時代だったので、あちこちの町や村から、
やんごとなき事情の子供たちは、寺子屋に預けられ
共に育ち、学び、巣立っていった。

平八郎の兄、熊五郎は、流行り病で失くした子に
瓜二つだと言う理由で、裕福な家庭の養子となった。
平八郎も明るくいい子だったが、良いご縁に恵まれず、
早く自立しようと、酒屋の丁稚奉公に志願したのだ。
 
無邪気な坊主達を見ていると、
そんな幼き頃の自分達と重なり、
どうしても放っておけなんだ。

心優しき平八郎。
てか、ちょっぴり、お人好し。
 
そういえば、この子達には名前が無かった。
そこで、平八郎は考えた。
濃い目の茶トラで、負けん気な方が
俄羅夢と書いて、ガラム。
茶白で、ちょっとぼんやりしてる方が
真沙羅と書いて、マサラ。
 
また、キラキラネームかいっ。
これじゃあ、テストの時に名前書くだけで
時間くっちまうじゃんかー。とか
お習字で、小筆で書いても、名前が真っ黒に
潰れる可能性大―。とか
まぁ、んなこたぁ、どうでもいいんでやんす。
 
ふたりを見てると、あの南蛮渡来のカレーライスとやらを
彷彿させるのです。いや、むろん、食べたことも
見たことも無い代物でしたが、食いしん坊の平八郎
想像力と知識だけはあったようです。

そんな変なスパイスな名前を付けられちまった
ふたりでしたが、平八郎や近所の面々に支えられて、
ガラマサ兄弟と呼ばれつつ、ひねくれて道を踏み外す
こともなく、まっすぐに大きく育った。

毎朝早く、長屋横町に水を汲みに行くことが
平八郎の仕事であり、日課でもあった。

ある朝、いつもの様に井戸に向かうと
近所の長屋の住民達が井戸端会議をしていた。
 
おはようございますー。
おはよう、平ちゃん。今朝も早いね。
 
ねぇ、聞いたかい? あの髪結いの亭主がよ
どうやら、博打でお縄になったらしいぜー。
えっ!?なんですって、髪結いのって、もしかして
牛五郎さんのことかい? 平八郎は、青ざめた。

そうだよー、あいつぁ、昔っから癖が悪くてよぅ。
酒浸りで遊んでばかりで、借金で困って、今度は
一攫千金だとか言って、賭け事に手ぇ染めやがって。
とうとう、お奉行様にバレて、しょっ引かれたって話よ。
 
子供が産まれたばかりだってのに、おさびちゃんも
苦労するよねぇー。さすがに見下り半渡されたって
もっぱらの噂だよ。馬鹿だよねぇーまったく。

平八郎は、慌てて、残された幼子達の事を、
ろれつも回らない調子で、まくしたてる様に聞いた。

すると、その時、ガラッと引き戸が開き
長屋の大家さんが現れて、こう言った。
 
なんだい、なんだい。
朝っぱらから、やかましいねぇー。
大きな体の後ろに隠れて、
眠たそうな子供が、ふたり。

ガラマサーーーーー!!! 
平八郎、半泣き。男泣き。
 
どうやら、ふたりは、大家さんが面倒見て
くれることになったらしい。
やんちゃ盛りで迷惑を掛けちまうーと
平八郎は、鼻水と涙でぐちゃぐちゃに
なった顔で心配したが

どうせ、ボロ長屋だからね、
壊されたって構やしないよ。

と、気持ちの良いほど、
あっけらかんと、大笑いをした。
 
朝日が眩しい、初夏の訪れを感じる一日の始まりでした。
 
【第二話 完】

子守り屋 第一話

さてさて、はちわれ牧場物語り シーズン2 始まり始まり〜


子守り屋  <第一話> 

時は、江戸中期。所は、賑やかな城下町。
酒屋問屋の丁稚奉公、名を平八郎という
一匹の黒白はちわれ猫がおりました。
 
働き者で、純朴な愛想の良い青年でありましたが
ずんぐりした太目の体格と、饅頭をつぶしたような
平べったい顔立ち。いい奴なんだけどねぇ〜。
奥手で、女子にゃ、からっきしモテませんでした。
 
そんな平八郎、今日もせっせと忙しく城下町を走ります。
街道沿いの宿場に近い、この町は、小料理屋や宿屋も多く
庶民の商いの場として、大変栄えておりましたから
酒の配達や御用聞きに日々奔走している訳でございます。
 
仕事の合間に、ちょいと一服、茶屋へ立ち寄るのが、
平八郎の唯一の楽しみでございました。
ここのお茶や団子は、安くて美味しい。

何といっても、お店の看板娘のおみっちゃんが
とても器量が良くて愛らしいのです。
平八郎、モテないけれど、惚れっぽい。
 
ある日、いつもの様に茶屋に寄った時のことでした。
店の前の縁台に、知り合いの大工のゲンさんが座っていて
腕組をしたまま、何やら深刻そうに唸っておりました。
 
やぁ、ゲンさん、休憩かい?
おぅ、平の字、配達のけえりか、ご苦労だな。
 
挨拶を交わし、一緒にお茶を飲んだ。
浮かない顔の原因を、それとなく聞いてみると
ゲンさんは、困った様に喋りだした。
 
いやな、六番町の角の古いお屋敷で、
雨漏りがするってんで、屋根裏の修理を頼まれたんだがねー。
上って開けてみたらさーまだ産まれて間もない
赤ん坊の兄弟が泣いてやがんのよ。
もう、びっくらこいて、慌てて家主に伝えりゃあよー。
そんなもん放っておけって・・・そりゃあ、ねぇよなぁ。
おっ母も見当たらねぇし、あの辺は遊郭もあるし、
ガキだけで生きていけるような場所じゃねぇだろう。
 
平八郎は、丸い目をもっと丸くして続きを聞いた。
 
そんで、仕方ねぇから、仕事を放り投げて、
ふたりを寺子屋へ連れて行ったのよ。
あそこの和尚は子供好きで優しいって
評判でさー身寄りのない子達を面倒見て
くれるって話だったからよ。
頼み込んで、帰ってきたはいいけど、
家主は怒ってんだろうなぁ。
 
ゲンさんは、喧嘩っ早いが、
情に厚い江戸っ子気質なのだ。

平八郎は、ゲンさんをなだめつつ、
町外れの寺子屋へ向かった。

そこは、平八郎の故郷でもあったのだ。
門前を掃除していたのは、おこんちゃんという茶白の娘だ。
こんちゃんは、小さい頃に目を悪くして見えないのだが
大抵のことはこなせる、気立ての良い娘だった。
 
おこんちゃん、こんちはー。
和尚さんは、いるかい?
 
あ、その声は、平八郎さんね。
ちょっと待ってて、呼んでくるわ。
 
こんちゃんは、すごいなぁー。
目が見えなくても、何でも出来ちゃうし
それに毛並みも金色で綺麗だよなぁー。
平八郎、惚れっぽいのが、たまにきず。
 
こりゃあ、珍しいお客人だ。
元気にしとったかのぅ〜平十郎や。
 
和尚さん、お久しぶりです。
それと、平十郎じゃなくて平八郎です。


 
先程のゲンさんの話をすると、和尚は平八郎を
中に引き入れ、ふたりに会わせてくれた。
黒白で、まだ幼い兄弟は身を縮めて固まり
寄り添ってブルブル震えていた。
しかも、薄汚れていて、弟の方は
片目が悪くなりかかっていた。
 
ゲンさんの気持ちも解るなぁ・・・。

自分と似たような柄だったせいもあり、
平八郎は、ひどく同情し気が付けば、
和尚に引き取らせて欲しいとお願いしていた。
 
とは、言ったものの自分も丁稚奉公の身である。
酒屋の店主に許可もなく、成り行きと勢いで
連れてきてしまった。
平八郎、お調子者である。しかも、結構小心者。
 
ドキドキしながら、店の裏口から入り、
店主に事情を説明した。店主は、目と口を真一文字に
閉じたま、暫く黙ったままでいた。

怒られる、破門になる、どうしよう。
 
すると、急に店主が顔を上げ立ち上がった。

えらいっ!! それでこそ男だ。
いいだろう、ふたりをお前さんの弟子として
住まわせてやんな。なに心配はいらねぇよ。
 
店主の目は、赤く潤んでいた。
予想外の展開に、平八郎は腰が抜けたが
店主の粋な、はからいに恩義を感じ
それから、より一層仕事に励み、
ふたりの面倒をみた。
 
ふたりの弟子は、平八郎を本当の親の様に
慕いながら育った。

すばしっこく、やんちゃな、好奇心旺盛の方は
流風と書いて、るぅふ。
少しドンくさい、いつまでも乳離れしない方は
呂太と書いて、ろふと。
いわゆる、キラキラネームというやつだ。
 
平八郎は、ふたりをたいそう可愛がってはいたが
自分がそうだったように、いつか、ふたりにも
独り立ちして貰わなければならない。
そう考えて、店に里子に出すための
張り紙を貼ることにした。

しばらくして、近所のお得意さんから連絡が入った。
店の張り紙を見て、ふたりに会ってみたいと言うのだ。

平八郎は、嬉しい反面、すごく不安だった。
ふたりを甘やかし過ぎて、すっかり引っ込み思案の
人見知りになっていたので、上手くいくのだろうか、と。
 
そうこういう内に面会の日は、やってきた。

案の定、ふたりは物凄い拒否反応を起こした。
嫌じゃー嫌じゃーと、逃げまくり、呂太に至っては
怖くて、お漏らし、ビビりしょんをする始末。
 
帰って家族と相談します、と言うお得意さんの後ろ姿を
見送りながら、平八郎は遠い目をして思った。
この縁組は、しっぺぇだな・・・。
 
ところが、数日後の返事は、思いもよらぬものだった。
なんと、ふたり一緒に引き取りたいと言われたのだ。
お得意さんは、ふたりの生い立ちに同情し、気に入ってくれた。
勿論、暫くは新しい家に馴染めず、かなり手を煩わせる
ことになったのだが、温かい家族に囲まれて
今では、すっかり慣れて立派に成長した。
流風は、先輩猫に仲良くしてもらい
呂太は、その後、仲間入りした妹の面倒を
よく見てくれているそうだ。
 
時々、そんな話を聞きながら、平八郎は思うのでした。

あんときゃ、どうなることかと思ったけど
やってみるもんだな〜。幸せに暮らせよぅ。
 
しかし、あいつら、俺に似て可愛かったなぁ〜。

平八郎、結構、自惚れ屋である。
 
          【第一話・完】
 

 

 


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